事業承継するにあたり、後継者をどのように選び、育成すればよいのでしょうか。

後継者が見つからない

近年、中小企業や個人事業主の事業承継にあたり、後継者が見つからないこと(後継者不在)が問題となっています。帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」によると、後継者不在率は、2017年をピークに減少傾向にあるものの全国の6割弱の企業で後継者がいない、または未定となっています。そのため、事業承継を考えている経営者としては、後継者をどのように選ぶのか早めに備えておく必要があります。

後継者の選び方

事業承継の方法と後継者選択の関係

後継者の候補者は、事業承継でどのような方法を選ぶかによって決まります。つまり、経営者が誰を後継者の候補者として選ぶつもりかによって選択できる事業承継の方法が決まります。

事業承継の方法には、親族内承継、親族外承継(従業員承継、第三者承継)があります。親族内承継の方法をとる場合、経営者の親族から後継者を選ぶことになります。従業員承継の方法をとる場合、会社内の役員や従業員から後継者を選ぶことになります。第三者承継のうち外部招聘の方法をとる場合、外部の経営者から後継者を選ぶことになります。

では、それぞれの事業承継の方法において後継者はどのように選ぶのが良いでしょうか。

事業承継の方法別の後継者の選び方

親族内承継の場合

親族内承継では、経営者の子供や兄弟姉妹といった親族内から後継者を選ぶことになります。この方法では、親族内に経営の資質・適性がある者がいるかどうかを見極めていくこと、そして、事業や経営についての経験や理解が浅い場合も多いため、十分に時間をかけて後継者を育成していくことが大切になります。経営者に子供がいるとしても、必ずしも後継者になってくれるわけではありません。親族から後継者を選べるかどうかは本人の意思次第となるため、経営者から後継者の候補となる親族に対して事業を引き継ぐ意欲をもってもらえるように事業の意義ややりがいを伝えていくことも大切です。

経営者に子供がいない場合や後継者になる意思のある親族がいないような場合は、親族内承継の方法をとることができません。ただし、子供に配偶者がいて経営に対する意欲がある場合は、経営者と配偶者が養子縁組して親族内承継の方法をとることが考えられます。

従業員承継の場合

従業員承継では、事業についての理解・経験をもっている会社内の役員や従業員から後継者を選ぶことになります。この方法では、事業についての理解・経験と経営についての理解・経験は必ずしも一致しないことから、役員や従業員それぞれの経営に対する資質・適性を見極めていくことが大切です。また、役員・従業員間の対立を招かないよう、客観的な基準・理由付けで後継者を選択することも大切です。

第三者承継の場合

第三者承継のうち外部招聘では、社外にいる経営に関する経験や知識が豊富な経営者から後継者を選ぶことになります。外部の経営者を選ぶ場合、経営者や取引先のつながりの中から条件に合った経営者に直接打診するほか、経営者の仲介・マッチングサービスなどを利用することが考えられます。この方法では、外部の経営者がどのような事業についての経験・知識があるか、これまで経営してきた会社と規模や事業態様にどのような違いがあるかといった点を考慮しながら最適な経営者を選択することが大切です。

後継者候補の選択肢を広げる

後継者の選択肢は広くあった方が、事業承継で後継者不足に悩む可能性が低くなります。後継者の候補者を決めていたとしても、事業を承継する意思をなくしてしまったり、会社から離れてしまったりして新たな後継者候補を探さざるを得なくなる場合もあります。後継者の候補者が複数いることで、事業の一部の業績が悪化したような場合に他の好調な事業を任せている候補者から後継者を選ぶなど、柔軟な後継者選びをすることができます。そのため、事業承継の方法はどれか一つにこだわるのではなく、親族や従業員を後継者候補として育成しつつ外部の経営者を招くことも考えておくなど、3つの承継方法それぞれの可能性を検討・準備しておくことが大切です。

後継者をどのように育成するのか

親族や役員・従業員といった後継者に経営を任せられるまで育成するには、一般的に5年程度の期間が必要といわれています。後継者候補によっては経営の知識や経験が無い状態からの育成となるため、十分に時間をかけて経験を積ませていく必要があります。そのためには、後継者に段階を踏みながら業務の経験を積ませる仕組みを作ることが大切になります。

また、実際に事業承継を行った経営者の意見によると、後継者にとって大切なものは、経験や能力以上に経営者としての意欲や覚悟であるといわれています。そのため、後継者を育成する際には、経営者が意欲的に後継者の育成に関わっていくことが重要です。経営者は後継者候補と十分に意思疎通を図り、後継者候補の意向を確認したり、経営理念などの知的資産の引き継ぎを進めたりして、後継者候補の覚悟や意欲を高めていくことが大切になります。

誰が事業を承継するのかは、親族や役員・従業員、取引先、金融機関といった関係者にとって大きな関心事です。経営者は後継者を選ぶ際には、利害関係のある関係者から十分に意見を聞き、後継者候補を選んだ際にも、関係者に理解と協力を求めて、後継者と関係者との関係を構築していくことが、円滑に事業を承継していくうえで重要となります。

個人事業主の後継者選び

個人事業主が後継者を選ぶ場合、一般的には親族内承継の方法で子供や兄弟姉妹が後継者となることが多く、親族内に後継者候補が見つからない場合、廃業を選ぶ個人事業主が多い傾向にあります。しかし、近年は個人事業主を対象とした第三者承継の仕組みが整備されてきており、後継者が見つからない個人事業主としては、そうした仕組みを利用することを検討すべきでしょう。

個人事業主を対象とした第三者承継の仕組みとして、「後継者人材バンク」があります。後継者人材バンクでは、後継者の見つからない個人事業主と創業を希望する者とのマッチングを行っており、小規模事業者や個人事業主にも使いやすい仕組みとなっています。

後継者が見つからないときは

後継者がどうしても見つからない場合や事業の業績が悪化している場合、廃業を考える経営者も多いと思います。しかし、社会的・経済的に価値のある事業も多く存在しており、そのような事業を廃業してしまうことが、国や地方にとって大きな損失となっています。後継者が見つからないのであれば、第三者承継のM&Aを利用して、事業をうまく活用できる会社に事業を売却することも検討すべきでしょう。

まとめ

事業承継では後継者をどのように選ぶのかが承継方法とも絡んで重要となります。後継者候補の幅を広げるためにも様々な承継方法を比較、検討して、経営状況に応じて臨機応変に適切な承継方法を選べるようにしておくことが大切です。そのためには、現在の経営状況や各承継方法をとった場合の課題について専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、適切な事業承継方法を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。