事業承継の方法としての親族内承継とはどのような承継方法でしょうか。また、親族内承継にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

親族内承継とは

親族内承継(親族内事業承継)とは、経営者の子供や兄弟姉妹など家族を含む親族を後継者として事業を引き継がせることをいいます。親族内承継では、後継者に対して①経営権と②事業を行うための資産が引き継がれます。これに対して親族以外の従業員や第三者に事業を引き継がせることを親族外承継(親族外事業承継)といいます。

帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」によると2021年には、事業承継全体のうち親族内承継は34%を占めています。

親族内承継のメリット、デメリット

親族内承継には次のようなメリットがあります。

  1. 親族から後継者を選択することは従来からよくあるため、社内の役員や従業員、取引先といった関係者からの理解を得やすく、後継者に対する協力を得られやすい。
  2. 経営権と事業を行うための資産の両方を後継者に引き継がせることができるため、所有と経営が分離することによる混乱を回避することができる。
  3. 経営者が意欲的に後継者の育成に関わることで、十分な時間をかけて柔軟な事業承継を実現でき、事業を引き継げたことへの経営者の満足度が高い。

その一方、親族内承継には次のようなデメリットがあります。

  1. 親族内に後継者となる意思のある者がいない場合や経営者としての資質・適性がある者がいない場合、親族内から後継者を選ぶと、事業に悪影響を与えたり関係者からの反発や離職を招いたりするおそれがある。
  2. 後継者候補となる者が複数いる場合、親族間の後継者争いや関係者を巻き込んだ対立に発展するおそれがある。
  3. 経営者と後継者の経営方針をめぐる対立が生じやすく、事業承継がうまく進められなくなるおそれがある。

親族内承継には、このようなメリット、デメリットがありますので、デメリットに十分配慮しながらメリットを生かせるような承継方法を考える必要があります。また、親族内承継特有のデメリットの解消が難しいと感じる場合は、無理に親族内承継にこだわらず、従業員承継や第三者承継といった他の承継方法を検討することも大切です。

親族内承継を円滑に進めるには

親族内承継を円滑に進めるためには、親族内承継のデメリットへの対応が必要です。そのためには、関係者からの理解を得やすいような基準に従って資質・適性のある後継者を早めに選び十分な時間をかけて育成すること、後継者候補を含む親族に十分に説明を行い、親族間の対立が生じないような承継方法を選択することなどが必要になります。

親族内承継の方法

親族内承継には、①相続、②贈与(生前贈与)、③売買(譲渡)による方法があります。

相続による方法

相続による方法は、経営者が亡くなったときに後継者への相続によって事業を承継する方法です。この方法は、経営者が亡くなるまでは後継者の経営を監督することができる、後継者が株式を買うための資金を用意しなくてもよいというメリットがありますが、相続税が発生する、他の相続人から遺留分侵害額請求される場合がある、後から遺言の内容を変更すると後継者の立場が不安定になるおそれがあるというデメリットがあります。

贈与による方法

贈与による方法は、経営者の生前に後継者に株式等を贈与することによって事業を承継する方法です。この方法は、書面でした贈与は原則として撤回できないことにより後継者の地位が安定する、後継者に経営者としての自覚を促すことができるというメリットがありますが、贈与税が発生する、贈与した財産が相続財産とみなされると他の相続人から遺留分侵害額請求される場合があるというデメリットがあります。

売買による方法

売買による方法は、経営者が後継者に保有する株式を売ることによって事業を承継する方法です。この方法は、相続・贈与による方法で問題となる遺留分侵害額請求の制約を受けないというメリットがありますが、後継者が株式を買うための資金を用意しなければならないというデメリットがあります。

まとめ

事業承継において親族内承継を考えている場合には、親族内から後継者を選ぶことによるメリット、デメリットを考える必要があります。また、親族内承継の方法としても相続、贈与、売買等による方法それぞれのメリット、デメリットを考える必要があります。近年は、従業員承継や第三者承継といった親族外承継による事業承継も増加していますので、そうした承継方法との比較も重要となります。事業承継の方法を選ぶにあたっては、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、適切な事業承継の方法を選ぶお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。