従業員承継のMBOやEBOではどのよう流れで事業承継を行うのでしょうか。MBOやEBOで役員や従業員が株式を買い取ることに問題はないのでしょうか。

MBOやEBOとは

後継者不足の中で、近年増加傾向にある従業員承継ですが、その中でも役員や従業員が会社の株式を買い取り、経営権に加えて資産を引き継ぐ方法が、MBO(マネジメント・バイアウト:役員による買収)やEBO(エンプロイー・バイアウト:従業員による買収)です。また、役員と従業員が共同で会社の株式を買い取る場合もあり、MEBO(マネジメント・アンド・エンプロイー・バイアウト)といいます。MBOやEBOは会社の内部にいる役員や従業員により承継が行われますが、会社の株式を買い取る手法はM&Aの一種としても位置付けられます。

外部招聘やMBIとの比較

第三者承継のうち外部の経営者に経営権だけを引き継ぐ方法を外部招聘といいます。また、役員や従業員ではなく、投資ファンドなどが会社の株式を買い取ったうえで外部の経営者に経営を任せ、会社の価値を向上させてから株式を売却する方法を、MBI(マネジメント・バイイン)といい、この方法もM&Aの一種として位置付けられます。MBIは、外部招聘のように外部の経営者に経営を任せながら、MBOやEBOのように株式も売却する方法です。MBOやEBOによる事業承継を検討する際には、会社の経営状況や社内の経営人材の有無などの観点から外部招聘やMBIなどの手法を比較して、適切な手法を選択することが大切です。

MBOやEBOの流れ

MBOやEBOは次のような流れで行われます。

  1. 経営者による事業承継の必要性の認識
  2. 経営状況や経営課題等の把握・整理(経営の見える化)
  3. 経営改善の取り組み
  4. 役員・従業員の中から後継者候補選び
  5. 事業承継計画の作成
  6. 関係者との調整、株主との条件交渉、株式譲渡契約の締結
  7. 資金調達、SPC(特別目的会社)の設立
  8. 契約の履行(クロージング)
  9. 先代の経営者の退任

どのように資金を調達するか

MBOやEBOでは会社の株式を買い取るための資金が必要となります。後継者に十分な資金がない場合は、後継者が個人で金融機関などから融資を受けるか、ファンドから出資を受けて資金を調達する必要があります。しかし、承継後の経営を安定させるために後継者が会社の経営権・支配権を掌握することを考えた場合、会社の株式の過半数または3分の2以上を買い取る必要があり、多額の資金を要することが予想されます。そこで、MBOやEBOではSPC(特別目的会社)と呼ばれる資金調達のための会社を設立することが一般的です。SPCは、承継対象の会社の保有する資産やキャッシュフローを担保として、金融機関から融資を受けたりファンドから出資を受けたりして資金を調達します。そして、承継対象の会社の過半数の株式を買い取り、後継者が承継後の会社の経営権を掌握したうえで、承継後の会社とSPCを合併させてSPCを消滅させます。SPCの借入金は承継後の会社が引き継いで返済していきます。

経営者の個人保証をどうするか

会社の借入金について経営者が個人保証をつけている場合があります。近年は、「経営者保証のガイドライン」ができて個人保証を求めない融資も増えてきましたが、まだまだ個人保証を求める金融機関はあります。MBOやEBOにおいても内部昇格と同様に個人保証の引き継ぎが問題となります。そのため、後継者に個人保証を引き継ぐのか、経営者の下に個人保証を残すのか後継者候補と調整するとともに、金融機関との間で個人保証を外してもらうよう交渉することも必要となります。またMBOやEBOでは、ファンドを活用することで後継者が個人保証をしなくて済む可能性もあります。

関係者との調整

MBOやEBOでは、社内の役員や従業員が後継者となり、これらの人材は自社の事業について一定の理解があります。しかし、金融機関や取引先といった関係者は、なぜ従業員承継ではなく株式を買い取る方法を選択したのか関心をもっています。そのため、関係者に対して十分な説明を行い、利害を調整することが求められます。また、社内に複数の有力な後継者候補がいる場合、後継者の選び方によっては、役員や従業員の間で対立が起こり、人材が離職する、承継後の経営が不安定となるといったおそれがあります。そのため、社内の人間関係の調整にも十分な配慮が求められます。

株式を買い取る際の問題点

MBOでは、株主のために職務を行う義務を負っている役員が、株主から自社の株式を買い取ることになるため、役員と株主との利益相反が問題となります。そのため、株主総会で重要な事実を開示して、承認を受けるなど会社法で定められた手続きに従うことが必要となり、これを怠ると株主から訴訟を提起されるおそれがあります。また、MBOやEBOを実施する場合、株式を安く買い取りたいと考える役員や従業員と高く売りたいと考える株主との利害対立が生じます。役員や従業員側から提示された株式の買取価格に納得しない株主がいた場合、事業承継を円滑に進められないおそれがあり、MBOやEBOの際の株式の買取価格をめぐり、しばしば裁判が起こっています。そのため、株式の買取価格を提示する際は、適正な手続きに従って、客観的な根拠に基づいて、株主の正当な利益に配慮した公正な買取価格を決定することが重要となります。

まとめ

MBOやEBOには、親族内承継よりも後継者の幅が広がる、後継者の育成にかかる時間を短縮できる、会社の経営権と資産の両方を引き継ぐため経営上の意思決定を迅速に行えるようになるといったメリットがあります。その一方で、社内から後継者が見つからない可能性がある、役員や従業員間あるいは株主との間で対立が生じるおそれがあるといったデメリットもあります。そのため、MBOやEBOだけでなく、M&Aなどの第三者承継の方法も併せて検討すべきでしょう。事業承継の方法を検討する際は、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、適切な事業承継方法を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。