事業承継において資金調達の必要があるとき、金融機関の他に事業承継支援を目的としたファンドから出資を受ける方法があります。ファンドを活用する場合にどのような方法で事業承継を行うのでしょうか。

ファンドとは

ファンドとは、複数の投資家から資金を集めて、運用し、利益を還元する仕組みをいいます。事業承継支援を目的としたファンドでは、投資家から集めた資金で事業承継を検討している会社あるいは事業承継先の会社の株式を買い取ります。そして、経営状況を改善させ、企業価値を向上させてから株式を売却して利益を得ます。これにより、資金が不足している後継者による事業承継や後継者不在の会社のM&Aが実施しやすくなります。

ファンドをどのように活用するか

ファンドの活用の方法としては、後継者がいる場合の活用と後継者不在の場合の活用の方法があります。

後継者がいる場合の活用

後継者がいる場合、次のような流れで事業承継を行います。

  1. 後継者が事業の承継を目的とした会社を設立する。
  2. ファンドが後継者の会社に出資して株主となり、後継者の会社はファンドに対して優先株式を発行する。ファンドの出資と併せて金融機関から借り入れたり後継者が出資したりすることも考えられる。
  3. 後継者の会社が先代の経営者の会社を承継する。
  4. 後継者はファンドの経営支援を受けながら、事業計画に基づいて企業価値を向上させる。
  5. ファンドから優先株式を買い戻し、ファンドは売却益を得る。金融機関からの借り入れがあれば返済する。

後継者不在の場合の活用

後継者不在の場合、次のような流れで事業承継を行います。

  1. ファンドが経営者の会社に出資して株主となり、会社はファンドに対して優先株式を発行する。
  2. 経営者はファンドの経営支援を受けながら、事業計画に基づいて企業価値を向上させる。
  3. 経営者はM&Aで会社を売却し、ファンドは売却益を得る。

ファンドを活用するメリット

経営者は会社を売却することで売却益を得ることができます。非上場の中小企業では、株式を売却して現金化することが難しいですが、ファンドが株式を買い取ることで、経営者が利益を得やすくなります。後継者がいる場合、株式を買い取るための資金をファンドが提供するため、後継者に十分な資金がなくても事業承継をしやすくなります。通常は、しっかりとした事業計画を立てて実施することで無理なく返済することができます。また、経営者と後継者いずれもファンドからの経営支援を受けられる可能性があるため、経営状況の改善を進めやすいというメリットもあります。

ファンドを活用する際の注意点

ファンドを活用する際に重要となるのが事業計画の作成です。事業計画が甘いと経営状況の改善がうまく進められないおそれや、出資が多くなりすぎてファンドからの株式の買い戻しや金融機関からの借入金の返済に苦労するおそれがあります。また、事業計画を予定通りに実施できるように経営者や後継者の経営努力も重要となります。一般的には、ファンドは事業計画の実施状況を監督し、事業計画を予定通りに実施できていない場合は、ファンドが経営に介入して経営者や後継者の経営に制限がかかるおそれがあります。

どのようなファンドを選ぶか

通常、ファンドは少数の運用者により運用されています。そのため、ファンドの運用者が信頼できるか、経験が豊富にあるかといった点を判断する必要があります。また、ファンドは経営状況により経営に介入することもありうるため、介入傾向が強いのか放任傾向が強いのか、どのような経営支援を行っているのかを調べ、どこまで経営に介入させるか検討しておく必要があります。その際には、ファンドの性格を決める要素である、ファンドの背後にいる投資家や出資者の属性を調べることも重要です。

まとめ

ファンドは、後継者の資金不足や後継者不在への対策として注目が高まっています。その一方で、経営者や後継者が的確に事業計画を実施できないと経営へのファンドの介入を招き、経営が不安定になることも考えられます。ファンドの活用には様々なメリット、デメリットがあるため、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、ファンドの活用も含め、事業承継の方法を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。