事業承継・引継ぎ補助金とは、どのような制度なのでしょうか。また、事業承継・引継ぎ補助金の交付を受けるには、どのような手続きが必要となるのでしょうか。

事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継・引継ぎ補助金とは、地域経済に貢献している、または貢献する予定の中小企業等が、①事業承継を契機として経営の革新に取り組む場合(経営革新)、②専門家の支援を受けながらM&Aなどによる事業承継に取り組む場合(専門家活用)、③事業承継の際に一部の事業を廃業する場合や事業承継に至らなかったものの廃業して新たな事業などに挑戦する場合(廃業・再チャレンジ)に、これらを支援することを目的とした補助金です。事業承継・引継ぎ補助金は、従来の事業承継補助金と経営資源引継ぎ補助金を一つの制度に統合したものです。事業承継・引継ぎ補助金は、これまでに数次の公募が行われていて、申請要件の変更や、国の予算や補正予算の状況に応じて各次の補助率や補助上限に変更があるため、補助金を申請する場合は公募要領やオンライン説明会でよく確認する必要があります。

経営革新

経営革新枠の補助金は、事業承継後に経営を革新する取り組みにかかる費用を補助するものです。経営革新枠には、創業支援型(Ⅰ型)、経営者交代型(Ⅱ型)、M&A型(Ⅲ型)の3つの類型があります。補助金の対象となる費用としては、店舗などの借入費、設備費、原材料費、マーケティング調査費、広報費などが該当します。経営を革新する取り組みとしては、デジタル化に資する事業(AI、IoT、センサー、デジタル技術等を活用してDX:デジタルトランスフォーメーションに資する製品やサービスを開発する事業、または、デジタル技術を活用して生産プロセス・サービスの提供方法を改善する事業)、グリーン化に資する事業(温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービスを開発する事業、または、炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービスの提供方法を改善する事業)、事業再構築に資する事業(主たる業種・事業は変更せず、新たな製品を製造する、または、新たな商品・サービスを提供することで新たな市場に進出する事業)などが該当します。経営革新枠の補助金を申請する場合は、中小企業等を支援する能力があるものとして国から認定された機関(認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があります。経営革新枠の補助金は、専門家活用枠および廃業・再チャレンジ枠(併用申請)の補助金と同時に申請できます。

創業支援型(Ⅰ型)

創業支援型(Ⅰ型)は、事業承継により他の経営者から経営資源を引き継いで創業した者が、経営資源を活用して経営の革新などに取り組む場合にかかる費用を補助する類型です。創業支援型の補助金の交付を受けるには、経営資源を引き継いだ者が、法人を設立するまたは個人事業主として開業すること、廃業を予定している経営者から資産・負債・設備・従業員・顧客などの有機的一体としての経営資源を引き継ぐことなどが必要となり、特定の資産や設備だけを引き継いで、経営資源全体を引き継がないような場合は対象となりません

経営者交代型(Ⅱ型)

経営者交代型(Ⅱ型)は、親族内承継従業員承継などを契機として経営の革新などに取り組む場合にかかる費用を補助する類型です。経営者交代型では、事業承継後だけでなく承継前に経営の革新に取り組む場合も支援の対象となります。経営者交代型の補助金の交付を受けるには、親族内承継や従業員承継のように同一法人内で代表者が交代する事業承継であること、または個人事業主への事業譲渡であること、後継者に経営や実務の経験や知識があること(経営経験を有している、同業種での実務経験を有している、認定特定創業支援等事業を受けて証明書がある、地域創業促進支援事業を受けて証明書がある、中小企業大学校の経営者・後継者向けの研修等を受けている)などが必要となります。

M&A型(Ⅲ型)

M&A型(Ⅲ型)は、M&Aなどによる事業承継を契機として経営の革新などに取り組む場合にかかる費用を補助する類型です。M&A型の補助金の交付を受けるには、親族内承継ではなく、株式譲渡、事業譲渡などのM&Aを実施することなどが必要となります。M&A型についても経営者交代型と同様の要件を充たす必要があります。

専門家活用

専門家活用枠の補助金は、M&Aなどの方法で事業承継するときに専門家の利用にかかる費用を補助するものです。専門家活用枠には、買い手支援型(Ⅰ型)、売り手支援型(Ⅱ型)の2つの類型があります。同一の事業承継の案件で、買い手と売り手の双方がそれぞれの支援型の補助金を申請できます。補助金の対象となる費用としては、委託費(仲介業者やファイナンシャルアドバイザーに支払う着手金・中間報酬・成功報酬等を含む)、システム利用料、保険料、企業価値の算定やデュー・ディリジェンスにかかる費用などが該当します。委託費のうち仲介業者やファイナンシャルアドバイザーの費用は、M&A支援機関登録制度に登録された機関の支援に関わる費用が対象となります。専門家活用枠の補助金は、経営革新枠および廃業・再チャレンジ枠(併用申請)の補助金と同時に申請できます。

買い手支援型(Ⅰ型)

買い手支援型(Ⅰ型)は、事業承継により株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等の費用を補助する類型です。買い手支援型の補助金の交付を受けるには、中小企業等が事業譲渡の最終契約書の当事者であることなどが必要となります。

売り手支援型(Ⅱ型)

売り手支援型(Ⅱ型)は、事業承継により株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等の費用を補助する類型です。売り手支援型の補助金の交付を受けるには、中小企業等が事業譲渡の最終契約書の当事者であること、株式譲渡の方法で事業承継を行う場合は支配株主または株主代表と共同申請することなどが必要となります。

廃業・再チャレンジ

廃業・再チャレンジ枠の補助金は、経営革新および専門家活用で事業承継するときに一部の事業の廃業にかかる費用を補助する(併用申請)、または事業承継に至らなかったときに新たな事業などに挑戦する場合の既存の事業の廃業にかかる費用を補助する(単独申請)ものです。廃業・再チャレンジ枠には、併用申請と単独申請の2つの申請方法があります。補助金の対象となる費用としては、廃業・清算に関する専門家の費用や従業員の人件費、在庫廃棄費、建物や設備の解体費、原状回復費、リースの解約費、設備の移転・移設費などが該当します。

併用申請

廃業・再チャレンジ枠は、経営革新枠および専門家活用枠と併せて申請できます(併用申請)。経営革新枠において譲り受けた事業の一部や既存の事業を廃業する場合、専門家活用枠の買い手支援型において譲り受けた事業の一部や既存の事業を廃業する場合、売り手支援型において残った事業を廃業する場合が対象となります。それぞれ廃業・再チャレンジ枠の要件と併せて、経営革新枠または専門家活用枠の要件も充たす必要があります。

単独申請

単独申請(再チャレンジ申請)は、M&Aによる事業譲渡に6か月以上取り組んでいるが、事業譲渡に至らなかった中小企業等の株主や個人事業主が、新たな法人を設立する、個人事業主としての新たな事業活動を実施する、自身の知識や経験を活かせる企業への就職や社会への貢献等をする場合に申請できます。単独申請では、一定の期間内に廃業を完了すること、中小企業を廃業する場合は、支配株主または株主代表と共同申請することなどが必要となります。

補助金の申請から交付までの流れ

事業承継・引継ぎ補助金の申請から交付までの流れは次のようになっています。

  1. 公募要領公開
  2. 申請受付開始【申請期間】
  3. 申請締切
  4. 交付決定【補助事業期間】
  5. 補助事業完了日
  6. 実績報告
  7. 確定検査
  8. 補助金交付請求
  9. 補助金交付
  10. 後年報告(経営革新枠、専門家活用枠の場合)

        公募要領公開

        公募要領は、事業承継・引継ぎ補助金のウェブサイト上で公開されます。

        申請と交付決定

        申請は、GビズID(法人・個人事業主向け共通認証システム)を利用して行います。会社代表や個人事業主がGビズIDのアカウントを作成する際には、書類審査が必要となり、審査完了には2~3週間かかる場合もあるため、申請受付開始前にあらかじめアカウントを作成しておくことでスムーズに申請を行えます。

        申請後、補助金の要件を充たすか審査が行われて交付決定となります。交付決定率は経営革新枠で約5割、専門家活用枠で約8割となっており、要件を充たしたうえで審査において加点を受けられるよう書類等を準備しておくことが重要です。

        補助事業と実績報告

        補助金の対象となる補助事業は、補助事業期間に行います。補助事業期間は補助金の枠ごとに定められています。また、補助事業期間には補助事業の実施状況について原則として状況報告を行う必要があります。

        補助金は、交付決定後に直ちに交付されるものではなく、補助事業期間に経営革新などの補助事業を行い、その実施状況についての実績報告が確定検査を受けた後に交付されます。実績報告で提出する必要がある書類は、事業承継の方法によって異なります。実績報告に費用を計上するためには、補助事業完了日までに契約や費用の支払いを終えておくことが必要です。そのため、申請から交付までの予定を把握して計画的に取り組むことが必要です。

        まとめ

        事業承継・引継ぎ補助金には、中小企業等の事業承継に関わる費用について支援を受けられるメリットがありますが、申請などの手続きに手間がかかる、申請から交付までの予定に縛られてしまうといったデメリットもあります。そのため、事業承継・引継ぎ補助金の申請を考えている場合は、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、事業承継・引継ぎ補助金の申請を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。