事業承継の方法としての従業員承継とはどのような承継方法でしょうか。また、従業員承継にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
従業員承継とは
従業員承継とは、経営者が役員や従業員を後継者として事業を引き継がせることをいいます。従業員承継には、役員や従業員を内部昇格させて①経営権だけを引き継がせ、②事業を行うための資産は経営者の親族などで引き継ぐ場合があります。また、役員や従業員に①経営権と②事業を行うための資産の両方を引き継がせる場合があり、役員が株式を買い取る方法をMBO、従業員が株式を買い取る方法をEBOといいます。MBO・EBOには、役員と従業員が共同で株式を買い取る方法もあり、MEBOといいます。
帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」によると2021年には、事業承継全体のうち内部昇格の方法による従業員承継は33.9%を占めています。
従業員承継のメリット、デメリット
従業員承継には次のようなメリットがあります。
- 役員や従業員は事業についての理解が深いため、他の役員や従業員、取引先といった関係者からの理解を得やすく、後継者に対する協力を得られやすい。
- 役員や従業員の中から最も経営の資質・適性がある者を選ぶことができるため、親族内からのみ選ぶ場合と比べると後継者の選択肢が広がる。
- 役員や従業員は事業内容や経営状況を把握しており、経営に関わっている者もいるため、後継者の育成にかかる時間を短縮することができる。
その一方、従業員承継には次のようなデメリットがあります。
- 資産を引き継がせる場合、後継者に資産(株式)を買い取るための十分な資金がない場合がある。
- 後継者が会社の借入金について金融機関から個人保証(連帯保証)を求められる場合がある。
- 後継者の選び方によっては、役員や従業員間の対立が生じ、関係者からの反発や離職を招くおそれがある。
従業員承継には、このようなメリット、デメリットがありますので、デメリットに十分配慮しながらメリットを生かせるような承継方法を考える必要があります。また、従業員承継特有のデメリットの解消が難しいと感じる場合は、無理に従業員承継にこだわらず、親族内承継や第三者承継といった他の承継方法を検討することも大切です。
従業員承継を円滑に進めるには
従業員承継を円滑に進めるためには、従業員承継のデメリットへの対応が必要です。そのためには、役員や従業員の買い取り資金を確保させる、もしくは資金が不要となるような対策を講じること、金融機関と交渉して個人保証を外してもらうこと、客観的な基準に従って後継者を選ぶなど、役員間・従業員間の対立が生じないような承継方法を選択することなどが必要になります。
従業員承継の方法
従業員承継には、①内部昇格、②MBO等(MBO・EBO・MEBOなど)による方法があります。
内部昇格による方法
内部昇格による方法は、経営者の退任とともに後継者を昇格させて経営を引き継がせる方法です。この方法は、MBO等と比べて株式の買い取りを伴わないため、後継者に十分な資金がなくても承継できるというメリットがありますが、経営者が資産を後継者には引き継がせずに、自ら保有し続ける、もしくは親族などに引き継がせることになるため、所有と経営が分離して、後継者の地位が不安定になるおそれがあるというデメリットがあります。
MBO等による方法
MBO等による方法は、役員や従業員が経営者から株式を買い取り、経営を引き継ぐ方法です。この方法は、株式を買い取ることで会社の支配権を確保できるため、所有と経営の分離を回避して経営が安定するというメリットがありますが、株式買い取りのための資金調達が必要になる、株式を集約することで事業承継後の資金調達がしづらくなるというデメリットがあります。
まとめ
事業承継において従業員承継を考えている場合には、各承継方法のデメリットに配慮して、承継後の経営をどのように安定させるか、株式の買い取りに必要な資金をどのように確保させるか考えることが大切となります。近年、従業員承継による事業承継は増えていますが、株主・株価対策などの専門的な知識が必要となりますし、同じく増加傾向にある第三者承継との比較も重要となります。事業承継の方法を選ぶにあたっては、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、適切な事業承継の方法を選ぶお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。