経営者が個人保証(経営者保証)をしている場合、事業承継においてどのような問題があるのでしょうか。個人保証は必ず後継者に引き継がなければいけないのでしょうか。

個人保証とは

個人保証経営者保証)とは、経営者個人が会社の負担する債務を会社と連帯して保証すること(連帯保証)をいいます。連帯保証とは、金融機関などの債権者に対して主債務者である会社が負担している主債務について、会社が支払いをしない場合に債権者が経営者個人に対して会社の代わりに債務を支払うよう求めたり、財産の差押えをしたりできるという保証契約のことをいいます。かつては、中小企業や個人事業主が金融機関から事業を行うための資金の融資を受ける際に個人保証を付けることが一般的でした。

事業承継があると個人保証はどうなるのか

事業承継があると個人保証は引き継がれるのか

事業承継の方法として親族内承継の方法を選んだ場合、後継者へと資産を引き継ぐ方法として相続が利用されることが多くあります。相続が発生すると、原則として亡くなった方の債務は相続人の間で分割して相続されます。経営者が個人保証をしていた場合は、通常は相続人である後継者に個人保証が引き継がれることになります。

事業承継の方法として親族外承継従業員承継第三者承継)の方法を選んだ場合や親族内承継で相続以外の方法を利用する場合は、必ずしも後継者や他の会社が個人保証を引き継ぐわけではありません。この場合、経営者の下に個人保証が残されたままになりますが、引退した経営者が経営責任を負わなくなったにも関わらず会社の債務を保証し続けることになってしまいます。

個人保証があるとどのような問題が生じるか

事業承継で問題となるのが、個人保証があることで後継者選びが難しくなり、事業承継を円滑に行えないおそれがあるということです。会社の債務について後継者が個人保証をする必要があると、自ら会社の債務を負担してまで後継者になろうという人は少なくなり、後継者候補を見つけることが難しくなります。親族内承継の場合は、親が負っていた債務を引き継ぐことはやむを得ないと考える後継者がいるかもしれませんが、従業員承継や第三者承継の場合は、自ら個人保証をしてまで後継者になろうという人は限られてしまいます。仮に後継者候補のつもりで育成していた人がいたとしても、事業承継の話になり個人保証をしなければいけないとなると、後継者となることを断られてしまう可能性があります。

個人保証を外すことはできないか

かつては事業承継にあたり後継者が個人保証を引き継ぐことが一般的でした。しかし近年は、中小企業や個人事業主の後継者不足が問題となる中で、個人保証の存在が事業承継の妨げとなっていることが指摘されており、個人保証を外せるような仕組み作りが進められてきました。そのため、事業承継を考えている経営者としては、個人保証を外すことを検討すべきでしょう。

個人保証をどのように外すのか

個人保証を外す仕組み作りの方向性を示すものとして、中小企業庁と金融庁の設置した「中小企業における個人保証等の在り方研究会」の報告をもとに、日本商工会議所と全国銀行協会の設置した「経営者保証に関するガイドライン研究会」から平成25年に「経営者保証に関するガイドライン」、令和元年に「経営者保証に関するガイドラインの特則」が公表されています。ガイドラインでは、経営状況について次にあげる3要件の全部または一部を将来にわたって充足すると見込まれる場合に、要件を充足する程度に応じて、個人保証なしで融資を受けられる可能性、代替的な融資手法(停止・解除条件付保証契約、ABL:動産・債権担保融資、一定の金利の上乗せなど)を活用して個人保証を見直すことができる可能性があるものとされています。

ガイドラインの3要件

  1. 法人の業務、経理、資産の所有、資金のやりとりなどについて、法人と経営者の関係が明確に区分・分離されている。
  2. 財務状況と経営成績の改善により返済能力を向上するなどして信用力が強化されている。
  3. 債権者からの要請に対して、資産負債の状況、事業計画、業績見通し・進捗状況などの信頼性の高い情報を正確かつ丁寧に開示・説明することで、経営の透明性が確保されている。

    ガイドラインに法的な拘束力はないため、必ずしも金融機関に個人保証を外してもらえるとは限りません。しかし、金融機関などは自発的にガイドラインを尊重・遵守することが求められています。また、金融機関としても今後とも取引を継続したいと考えている会社であれば、円滑に事業承継が行われるように協力する傾向にあります。そこで、経営者は3要件を充たすように経営の改善を図りながら、事業承継の際の個人保証の扱いについて金融機関と交渉してみるべきでしょう。

    個人保証を外せないときはどうするか

    融資を借り換える

    事業承継においては、まず個人保証を外してもらうよう金融機関と交渉することが重要ですが、3要件を充たしていても会社の返済能力に不安があると判断されると、個人保証を外してもらえない場合があります。そのような場合でも、金融機関によってはガイドラインの要件を充たせば個人保証を不要とする融資を行っているところがあります。そこで、そのような金融機関が提供している融資に借り換えることが考えられます。

    会社の債務を返済する

    個人保証を外してもらったり、他の金融機関に借り換えたりすることが難しい場合でも、現在の会社の業績が好調で債務を返済できるだけの資金の余裕があるときは、会社が債務を返済することで、個人保証を終了させることが考えられます。

    個人保証を継続する

    現在の会社の業績が好調とはいえず、会社の資金にも余裕がない場合は、やむを得ず経営者の下に個人保証を残したまますることになります。

    まとめ

    個人保証があると後継者選びや事業承継自体がスムーズに進められなくなる恐れがあります。個人保証を後継者に引き継ぐとしても、どのような形で引き継ぐべきか検討する必要があります。また、近年は中小企業や個人事業主を対象に個人保証によらない融資の仕組み作りが進んでいますので、そのような仕組みを利用して個人保証を外すことも検討すべきでしょう。その際には相続の仕方や金融機関との交渉について専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、事業承継に向けて個人保証の引き継ぎや見直しを検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。