事業承継が終わった後、先代の経営者は承継後の会社の経営に一切関わらない場合と一定の関わりを続ける場合があります。それぞれの立場でどのような問題が起こるのでしょうか。

事業承継後に経営者はどうするか

事業承継後の経営者には、大きく分けると2つの立場があります。1つは承継後の会社の経営には一切関わらない立場で、これには会社の経営からは退くものの株式は保有し続ける立場と、会社の株式も売却して完全に引退する立場があります。もう1つは承継後の会社の経営に関わり続ける立場で、一般的には会長、顧問、相談役といった肩書で会社に残ることが多いです。2023年版中小企業白書によると、中小企業の経営者のうち約割が承継後の会社の経営に関わることを選んでいます。

経営には関わらない場合の問題

先代の経営者が承継後の会社の経営には関わらない場合、基本的には経営上の問題はすべて後継者に任せることになります。しかし、事業承継では、経営権や事業のための資産の承継が終わっても、経営理念などの知的資産の承継には時間がかかることがあります。また、承継後の経営が当初の計画通りに進むとは限らず、後継者が新しい経営手法に取り組んでみたものの、経営がうまくいかないような場合もあります。このような問題に対応するため、先代の経営者が会社に残り、後継者の経営が軌道に乗るまで見守ることも考えるべきでしょう。

経営に関わり続ける場合の問題

先代の経営者が承継後の会社の経営に関わり続ける場合、先代の経営者に経営上の一定の権限を残す方法と、権限を完全に後継者に移す方法があります。一定の権限を残す場合、事業承継を行うときに経営権を後継者に一度に承継するのではなく、少しずつ承継していきます。このようにすることで後継者に実際に経営を任せてみて、うまくいかなかった場合は事業承継をやり直す余地を残すことができます。また、先代の経営者に拒否権付株式(黄金株)を発行することで、後継者が経営を誤ったときにストップをかけられる余地を残すことが考えられます。ただし、先代の経営者が拒否権を行使しすぎると、役員や従業員が経営の実権をもっている先代の経営者にばかり相談して、経営が混乱するおそれがあることに注意が必要です。

権限を完全に後継者に移す場合、先代の経営者は会長などの肩書で後継者の経営を見守る立場につきます。これにより経営に関して助言をし、後継者からの相談に乗り、金融機関や取引先などの関係者と後継者との間を取り持つ役割を果たすことになります。ただし、先代の経営者が経営に関与しすぎると、後継者が自由に経営を行えず経営に対する意欲を失う、先代の経営者の影響力が残り社内が派閥化する、経営の変化が乏しくなり後継者の経営手法による経営の改善や改革の効果が薄くなるといったおそれがあります。そこで、先代の経営者が経営に関与する場合は、あらかじめ期間を決めておく、先代の経営者として残してほしい部分や後継者が変えたい部分などはどこか後継者と十分に話し合う、社内では後継者の意見を立てることで社内の派閥化を防止することが重要となります。

まとめ

事業承継は、経営権や資産を引き継いだら終わりではなく、先代の経営者が後継者を支援して経営を軌道に乗せることが重要です。先代の経営者が後継者を支援し続けるためには、早い時期から事業承継の準備を始め、時間をかけて計画的に事業承継に取り組むことが必要です。事業承継の準備に取り組む際は、専門家に相談して適切な支援を受けることが大切です。当事務所では、事業承継の準備をするお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。