高齢化の進行にともない社会福祉法人では事業承継の必要性が高まっています。では、社会福祉法人の事業承継はどのように行うのでしょうか。

社会福祉法人とは

社会福祉法人は、社会福祉法に基づき社会福祉事業を行うことを目的として設立される法人です。社会福祉法人の担う事業は、高齢者、児童、障害者を対象とした施設の運営事業や支援事業など多岐にわたります。社会福祉法人は、一般的な会社と異なり、社会福祉を担うという公的な役割があることから、設立には都道府県の認可が必要とされ、指導や監督を受けるかわりに、補助金の支給や税制上の優遇を受けられます。

なぜ事業承継が必要なのか

社会福祉法人は、非営利の組織であり市場原理が働かず、事業規模の拡大や経営の効率化には消極的であること、経営者やその親族が私財を投じて同族で経営する場合が多いことから、従来は事業承継があまり問題となってきませんでした。しかし、少子高齢化や生産年齢人口の減少が進む中で社会福祉の需要が増加するとともに、多様化、複雑化してきました。これに合わせて、2000年の介護保険制度の成立など社会福祉の仕組みも変化してきた結果、社会福祉法人にもサービスの包括性、多様性、均一性、質の向上などが求められるようになってきました。また、小規模な法人における非効率な経営の改善、法令違反などの問題を抱えた法人の改善、物価高騰などによるコストの増加への対応、サービスを担う人材の不足といった問題への対応も求められています。そのような問題への対策として、社会福祉法人においても事業承継を考えることが重要になってきています。社会福祉法人が、事業承継によって経営を大規模化、安定化、効率化、多角化することにより、多様かつ複雑になった新たな社会福祉の需要に応えられるようになる、人材育成や災害対応など、小規模な法人では難しい問題に対応できるようになるといった効果が期待されています。

どのような方法で事業承継するか

社会福祉法人の事業承継の方法として考えられるのが、①合併による方法と②事業譲渡による方法です。ただし、小規模な法人の場合、これらの方法による事業承継は負担が大きいことから、法人の形態を変えずに経営を改善する方法として、③法人間の連携・協同や④役員の交代という方法も考えられます。

合併による方法

合併とは、2つ以上の会社が1つに結合されることをいいます。合併には、統合先となる会社(新設会社)を新たに設立し、すべての会社(消滅会社)が一切の権利義務を承継させる新設合併、合併後も存続する会社(存続会社)に対して合併後に消滅する会社(消滅会社)が一切の権利義務を承継させる吸収合併があります。

合併には、2つ以上の法人が一体となることから、①経営基盤が強化されて事業の安定性や継続性が高まりサービスの質の向上が可能になるとともに、事業の効率化が進みコストの削減が可能になる、②新たな人材やノウハウ、設備などを獲得することによりサービスの多様化、複雑化を進めることができる、③新たな知識、技能、経験をもつ人材を獲得し、人材の交流が進むことで、人材の育成や能力の向上につながるといったメリットがあります。その一方で合併には、①手続きに時間やコストがかかる、②合併後の統合をうまく進められないと風土の違いなどが原因となって人材が離職するおそれがあるといったデメリットがあります。

事業譲渡による方法

事業譲渡とは、法人が事業の全部または一部を他の法人に譲渡することをいいます。事業譲渡には、合併のメリットに加えて、会社の事業や資産・負債を丸ごと譲渡できることから、①事業の継続が困難となった法人の事業を継続できる可能性がある、②譲り受けた事業を活用することで迅速に事業を拡大することができるといったメリットがあります。その一方で事業譲渡には、引き継ぐ資産や負債ごとに個別の承継手続きが必要となるため手続きに時間やコストがかかり、事業規模が大きくなるほど手続きが複雑になるといったデメリットがあります。

法人間の連携・協同による方法

法人間の連携・協同とは、技術開発資材購入などについて法人間で協力関係を構築することを指します。どのような範囲や内容で協力関係を構築するのか明確な定義はありませんが、法人間で相互に協力関係を構築すること全般が含まれると考えられます。法人間の連携・協同の具体的な内容としては、共同で資材を購入したり専門家と契約したりすることでコストを削減する、共同でイベントを実施してサービスを拡充する、共同でマニュアルを作成したりスキルを共有したりする、共同で研修を実施して人材を育成するなどが考えられます。法人間の連携・協同は、①合併や事業譲渡の手続きにかかる負担が大きすぎる、小規模な法人でも取り組みやすい、②合併や事業譲渡のように法人の形態が変わるものではないため、意思決定から短期間で実施しやすいといったメリットがあります。その一方で法人間の連携・協同には、①合併や事業譲渡と比べると経営基盤を強化し、経営の効率化を図る効果は小さい、②双方の法人が相手方の事業内容を十分に理解していないと協力関係を構築することが難しいといったデメリットがあります。

役員の交代による方法

役員の交代とは、法人外の第三者が理事会に参加したり、経営陣を交代したりすることを指します。役員の交代は、法人の形態を変えるものではなく、①合併や事業譲渡が難しい小規模な法人でも経営基盤の強化に取り組める、②社会福祉法人とは合併ができない医療法人などが、合併や事業承継によらず社会福祉法人の経営基盤を強化できるといったメリットがあります。

まとめ

社会福祉需要の多様化、複雑化に対応するため、社会福祉法人では、経営基盤を強化し事業の効率を改善する手段として、事業承継の必要性が高まっています。しかし、これまで事業の拡大や経営の効率化に消極的であった社会福祉法人において事業承継を行う際には、なぜ事業承継が求められているのか経営者や役員が十分に理解したうえで、どのような事業承継の方法をとるべきか検討することが大切です。社会福祉法人における事業承継では、一般の会社とは異なる規制や手続きが存在するため、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、社会福祉法人における事業承継を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。