事業承継では相続に関わる問題への対策として生命保険を活用することができます。生命保険をどのように活用し、何に注意すべきでしょうか。

事業承継における相続の問題点

事業承継において親族内承継の方法をとる場合、後継者の他に相続人が存在すると、後継者に事業のための資産を承継させることで他の相続人の遺留分を侵害するおそれがあります。他の相続人は後継者に対して遺留分侵害額請求として金銭の支払いを求めることができますが、後継者に十分な金銭がない場合は、事業のための資金から金銭を支払うことになり、事業用資金が不足するおそれがあります。遺留分を侵害しないように他の相続人に金銭を相続させると、後継者に十分な金銭を相続させることができない可能性があります、この場合、相続税の納税資金の確保に困るおそれがあります。いずれにしても後継者は、事業の継続に支障をきたしたり、資金を確保するため株式を売却したりして事業を手放すことになりかねません。

このような事態にならないよう、後継者に金銭を相続させながら他の相続人の遺留分を侵害しないようにすると、他の相続人には株式を相続させることになります。しかし、多くの株式を他の相続人に相続させると、親族間で対立が生じた場合に、他の相続人が議決権を行使して経営に関与することで、承継後の経営が不安定になるおそれがあります。

生命保険をどのように活用するか

このように後継者の資金の確保や遺留分が問題になる場合にとることができる方法の一つが生命保険の活用です。事業承継において生命保険には次のような役割があります。①後継者を生命保険金の受取人にしておくことで、後継者が金銭を取得できるようにする、これにより②後継者に納税資金を確保させるとともに、③他の相続人からの遺留分侵害額請求に対する金銭支払いに備えさせる

生命保険を活用する際の注意点

後継者が受け取る生命保険金は、後継者の固有の財産であり本来の相続財産には当たりません。しかし、「みなし相続財産」に当たるとされ、相続税がかかります。ただし、全相続人が受け取った保険金が「500万円×法定相続人の数」を超えない部分については相続税が非課税となります。また、生命保険を活用する方法では、後継者に金銭を引き継がせることはできるが、他の種類の財産を引き継がせることはできないこと、後継者が多額の保険金を受け取れるようにしようとすると、保険料が高額になる可能性があることにも注意が必要です。

生命保険に加入する際にも注意が必要です。経営者ではなく後継者が保険料負担者となっていた場合は、保険金に所得税がかかりますし、経営者と後継者以外の方が保険料負担者となっていた場合は、保険金に贈与税がかかります。そのため、生命保険を税金対策として活用したい場合は、経営者が保険料負担者かつ被保険者となることが重要です。また、次のように保険金の受取人をどのように指定するか、または指定しないかによって保険金の扱い方が変わります。

保険金受取人に「後継者」を指定した場合

この場合は、保険金は相続財産とはならず、後継者の固有の財産となるため、遺留分の算定では考慮されず、遺産分割の対象とはなりません。

保険金受取人に「経営者または経営者が死亡しているときは相続人」を指定した場合

この場合は、経営者が死亡した時点の相続人が保険金の受取人に指定されたと解釈され、保険金は相続人の固有の財産となるため、通常は相続分に応じて分割されることになります。

保険金受取人を指定していない場合

この場合は、保険契約の約款の規定に従うことになりますが、通常は相続人が保険金の受取人に指定された場合と同様、相続人の固有の財産として扱われます。

まとめ

生命保険の活用には、事業承継にともなう後継者の様々な資金需要に応えられるメリットがありますが、注意すべき点もたくさんあります。そのため、他の対策と組み合わせて活用することが重要であり、その際には専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、生命保険や他の相続対策の検討、遺言書の作成などのお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。