一般社団法人や一般財団法人は一般的な会社とは異なる性格をもっています。ではこれらの法人では、どのような方法で事業承継を行うのでしょうか

一般社団法人、一般財団法人とは

一般社団法人、一般財団法人とは、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づいて設立される法人です。一般社団法人には、業界団体、職能団体、学術団体、自治会、町内会などがあります。一般財団法人は、財産の維持や運用を行う団体です。一般社団法人、一般財団法人は、許可や認可なしに設立でき、非営利型の法人の場合、税制上の優遇を受けることができます。また、公益性が高い事業を行う法人の場合は、内閣総理大臣または都道府県知事から公益性の認定を受けることで公益社団法人、公益財団法人となり、税制上の優遇を受けることができます。

どのような方法で事業承継するか

一般社団法人、一般財団法人の事業承継の方法として考えられるのが、①合併による方法、②事業譲渡による方法です。また、法人の形態を変えずに事業を引き継ぐ方法として、③社員、評議員、理事の交代による方法があります。一般社団法人、一般財団法人(いずれも普通型と非営利型を含む)、公益社団法人、公益財団法人はいずれの法人との間でも事業承継することができます。ただし、以下で解説するように注意すべき点があります。

合併による方法

合併とは、2つ以上の会社が1つに結合されることをいいます。合併には、統合先となる会社(新設会社)を新たに設立し、すべての会社(消滅会社)が一切の権利義務を承継させる新設合併、合併後も存続する会社(存続会社)に対して合併後に消滅する会社(消滅会社)が一切の権利義務を承継させる吸収合併があります。合併には、2つ以上の法人が一体となることから、経営基盤が強化されて事業の安定性や継続性が高まるとともに、事業の効率化が進みコストの削減が可能になる、新たな知識、技能、経験をもつ人材を獲得し、人材の交流が進むことで、人材の育成や能力の向上につながるといったメリットがあります。その一方で合併には、手続きに時間やコストがかかる合併後の統合をうまく進められないと風土の違いなどが原因となって人材が離職するおそれがあるといったデメリットがあります。

一般社団法人、一般社団法人は、①一般社団法人どうし、②一般財団法人どうし、③一般社団法人と一般財団法人で合併することができます。ただし、法律上組織変更の定めがないため、新設分割において新設会社となるのは、①一般社団法人どうしの場合は一般社団法人、②一般財団法人どうしの場合は一般財団法人、③一般社団法人と一般財団法人の場合はいずれかの種類の法人である必要があります。また、③一般社団法人と一般財団法人の場合で、一般社団法人が活動資金を調達するため基金を設定していて、合併契約の日までに基金の全額を返還していない場合は、基金の拠出者を保護するため新設会社は一般社団法人である必要があります。

事業譲渡による方法

事業譲渡とは、会社が事業の全部または一部を他の会社に譲渡することをいいます。事業譲渡には、合併のメリットに加えて、法人の事業や資産・負債のうち一部を丸ごと譲渡できることから、引き継いだ事業を迅速に展開できる、不要な資産や簿外債務を引き継ぐリスクを回避できるといったメリットがあります。その一方で、引き継ぐ資産や負債ごとに個別の承継手続きが必要となるため、事業の規模が大きくなるほど手続きが複雑になるといったデメリットがあります。

社員、評議員、理事の交代

社員、評議員、理事の交代とは、一般社団法人の社員総会の議決権を有する社員、一般財団法人の評議員会の議決権を有する評議員、役員である理事を交代することを指します。一般社団法人、一般財団法人では、持分の概念がありません。そのため、社員、評議員、理事を交代するだけで事業承継を行うことができます。社員、評議員、理事の交代は、法人の事業形態を直接変えるものではないため簡易な手続きで行うことができ、時間や費用を抑えることができるといったメリットがあります。なお、公益社団法人、公益財団法人では、公益性を担保して同族経営にならないようにするため、同一親族から理事になれる割合に上限があるなど、理事の資格に制限があります。

一般社団法人、一般財団法人における事業承継の問題

一般社団法人、一般財団法人は、公益社団法人、公益財団法人との間で事業承継することもできます。ただし、このような事業承継をする場合、公益目的ではない事業が増えることで公益目的事業比率が法律で定められた50%の基準を下回り、公益性の認定が受けられなくなるおそれがあることに注意する必要があります。また、非営利型の法人が普通型の法人との間で事業承継する場合は、税制上の優遇が受けられなくなるおそれがあることに注意する必要があります。

相続税・贈与税対策としての一般社団法人

一般社団法人では持分の概念が無いため、原則として一般社団法人の資産は相続財産とはならず、相続税の課税対象となりません。かつては、これを利用して資産管理会社として一般社団法人を設立して現金、株式、不動産といった資産を寄付、譲渡しておき、その理事が亡くなった際に相続人が新たな理事となることで相続税や贈与税の課税を受けずに資産を承継させるという方法がとられてきました。しかし、平成30年の相続税法の改正により、理事とその親族(同族理事)が理事の過半数を占めて法人の経営を支配している法人(特定一般社団法人等)について、理事または理事を交代して5年が経っていない者が亡くなった場合に、特定一般社団法人等を個人とみなし、かつ純資産額の一定の割合を遺贈により取得したものとみなして、法人に相続税が課されることになりました。これにより、同族理事の割合が過半数を下回っている場合や、理事が交代してから5年以上経って亡くなった場合でなければ、相続税の課税を免れることができなくなりました(国税庁「特定の一般社団法人等に対する相続税の課税の概要」)。また、法人に対して贈与や財産の提供(贈与等)があった場合、贈与等をした者、その親族、特別の関係がある者が、法人の施設や余裕金を私的に利用して特別の利益を受けていると、法人に贈与等があった際に法人に贈与税が課されることになりました。

まとめ

一般社団法人、一般財団法人は、許可や認可を受けずに容易に設立できる法人ですが、事業承継により経営を改善・改革するなどのメリットを享受できます。また、法改正により利用の余地は小さくなったものの、相続税・贈与税対策として一般社団法人の事業承継が利用される場合があります。ただし、一般社団法人、一般財団法人には一般の会社とは異なる規制や手続きも存在することから、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、一般社団法人、一般財団法人における事業承継を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。