後継者が見つからなかったり、多額の債務を抱えていたりする場合は廃業すべきでしょうか。事業承継するのと廃業するのではどのような違いがあり、どちらを選ぶべきでしょうか。
廃業とは
廃業とは、会社や個人事業を消滅させて事業をやめることをいいます。廃業により、不動産、設備、在庫などの事業のための資産は処分され、従業員は解雇され、金融機関や取引先などの関係者との関係も無くなります。廃業では、会社や個人事業を消滅させる手続きと資産を処分する手続きがあります。近年は特に中小企業において、後継者不足、経営者の高齢化、M&Aへの知識不足などを原因として、事業承継がうまく進められず廃業するケースが増加する傾向にあります。東京商工リサーチの調査によると、新型コロナウイルスの影響もあり2020年の廃業数(休廃業・解散)は2000年以降で最多となっています。
廃業と倒産は何が異なるのか
よく廃業と混同して使われる言葉に倒産があります。廃業と倒産は何が異なるのでしょうか。倒産とは、弁済期にある債務を支払うことができなくなり、事業の継続が困難となることをいいます。廃業が、経営者により自主的に行われるのに対して、倒産は、経営状況の悪化からやむを得ずそのような状態になるという違いがあります。また廃業では、倒産と異なり債務は完済する必要があります。倒産は、法律で定義された言葉ではなく、法律上のいくつかの手続きをまとめた総称です。
法律上の手続きの分類
法的整理
法的整理は、債権者または債務者の申請に基づいて、裁判所が関与して行われる手続きです。
清算型:債務者の財産を清算して、金銭を利害関係者に分配します。
- 破産:破産法に基づく清算型の手続きで、厳格な手続きがとられます。法的整理の基本となる類型です。
- 特別清算:会社法に基づく清算型の手続きで、破産よりも簡易・迅速な手続きで清算を行います。
再建型:債務者の財産を残しながら、債務を減らして債務者の支払い能力を回復させます。
- 会社更生:会社更生法に基づく再建型の手続きで、比較的大規模な会社が対象となります。
- 民事再生:民事再生法に基づく再建型の手続きで、中小企業や個人事業主が対象となります。
私的整理
私的整理は、債権者と債務者の間の協議により行われる手続きで、清算型と再建型の両方があります。任意整理ともいいます。
- 事業再生ADR制度:私的整理を支援する制度で、事業再生の専門家が債権者と債務者の間の協議を調整します。
どんな理由で廃業されているのか
後継者の不足
経営者に後継者がいない場合、経営者の引退とともに廃業することが多くあります。後継者がいない状況としては、後継者を探したものの親族から拒否されたり、従業員が不足していたりして見つからない場合、後継者候補はいるが育成の取り組みがうまくいかなかった場合などがあります。特に中小企業や個人事業主の事業承継では、後継者の不足が大きな問題となっており、中小企業の6割以上で後継者が不足しています。また、事業承継か廃業かという問題が起こってから後継者を探し始める経営者も多く、廃業を選んだ経営者のほとんどが後継者を探すことなく廃業しています。
経営者の高齢化
高齢化の進行にともない経営者の高齢化も進んでいます。近年、休業・廃業した中小企業の経営者のうち70歳代が約4割を占め、60歳以上では8割以上を占めています。経営者が高齢化すると、後継者の育成や事業承継への取り組みがうまく進められず、廃業に至るケースが多くあります。
事業や業界の先行きに不安がある
会社の事業や業界の将来が見通せず、事業を続けても経営状況が悪化することが予想される場合、先行きへの不安から経営者が廃業を選ぶケースも多くあります。2020年以降の新型コロナウイルスの問題では、事業者に対する様々な支援策がとられたものの、中長期的な事業の改善が見込めないことを理由に多くの経営者が廃業を選んでいます。
廃業を選ぶべきか
廃業では、金融機関からの借入金、従業員の退職金、取引先への買掛金などの債務を返済する必要があります。これにより、経営者は金融機関、従業員、取引先などの関係者への影響を最小限に抑えて事業をやめることができるというメリットがあります。また、経営者は、廃業することで資金面の悩みや事業の将来への不安から解放されるというメリットもあります。その一方で廃業するには、債務の返済や手続きの費用、不動産・設備・在庫の処分などの費用がかかる、廃業しても経営者の個人保証が残る可能性があるというデメリットがあります。経営状況が悪化して、債務超過となっている状態では廃業することが難しく、経営に余裕があるうちに廃業する必要があります。また、廃業により従業員の雇用や取引先との関係が失われるため、従業員は新たな職を探す必要があり、取引先も新たな取引先を探す必要があります。
事業の中には地域に社会的・経済的に貢献しているものが多く存在します。廃業により事業が消滅することで、地域の社会や経済に与える影響は小さくなく、事業のもっていた価値や技術、ノウハウなども失われてしまいます。廃業に費用がかかることから分かるように、廃業できる事業は比較的好調な事業であるといえます。近年、実際に廃業した企業のうちの過半数は黒字経営であり、また、後継者不在で廃業を考えている企業ほど業績が良い傾向にあります。事業のもつ社会的・経済的な価値を将来に引き継いでいくことの大切さを考えると、廃業を選ぶよりもM&Aによる事業承継で第三者に事業を託すべきでしょう。
M&Aによる事業承継
事業承継には、事業を存続させることができ、事業の価値や技術、ノウハウなどを将来に引き継ぐことができる、従業員の雇用を維持できる可能性が高い、取引先との関係を維持できる、経営者が個人保証から解放されるといったメリットがあります。M&Aによる事業承継には、これらのメリットに加えて、専門家の支援を受けることで廃業よりも簡単な手続きで済む、事業を売却することで経営者が対価を得て引退後の資金を確保できる、買い手が承継した事業を活用することが期待できるといったメリットもあります。
多額の債務を抱えていてもよいのか
多額の債務を抱えている場合でも、M&Aによる事業承継の可能性があります。承継する事業それ単体では、赤字を解消するのに十分な収益が得られないとしても、買い手の事業とのシナジー(相乗効果)により十分に収益を得て事業を再生できる、さらに事業を拡大して高い収益が期待できると判断される場合があります。そのような場合、多額の債務があったとしても、良好な条件で事業を売却できる可能性があります。多額の債務を抱えていると廃業は難しく、倒産すると関係者に大きな迷惑をかけてしまいます。そのような状況になるよりは、少しでも売却の対価を得られるM&Aに取り組むべきでしょう。
まとめ
廃業は、事業に関わる一切の関係を消滅させることができますが、地域の社会や経済、関係者に与える影響は少なくありません。廃業を考えている場合は、廃業のメリット、デメリットを十分に検討する必要があります。近年は、価値ある事業を将来に引き継いでいくべきという意識が高まっています。親族や従業員の中から後継者が見つからないような場合でも事業承継をあきらめるのではなく、M&Aにより事業をうまく活用してくれる会社や経営者に任せることも考えるべきでしょう。M&Aによる事業承継には、買い手を探したり交渉したりするのに時間と労力がかかるという課題がありますので、専門家に相談して適切な支援を受けることが大切です。当事務所では、廃業や事業承継の方法について考えるお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。