株式会社が自社の株式を保有している場合に事業承継に活用できないでしょうか。自己株式の活用の仕方や注意点について解説します。
自己株式とは
自己株式とは、会社が保有している自社の株式のことです。自己株式は、金庫株、社内株とも呼ばれます。かつては会社が自己株式を取得することは商法で禁止されていましたが、次第に規制が緩和されて、近年はある程度自由に会社が自己株式を取得・保有することができます。
株式の承継の問題
事業承継において、経営者から後継者や親族などに株式を引き継ぐ場合、相続であれば相続税、贈与であれば贈与税を支払う必要があり、売買(譲渡)であれば買い取るための資金が必要になります。事業承継における問題の一つとして、株式の評価額が高額になり、相続税・贈与税の支払いや株式の買い取りに多額の資金を準備する必要があるという問題があります。特に非上場の中小企業では、株式の評価額が高額になりやすい傾向にあることから、後継者が十分な資金を準備できないと、相続税・贈与税の資金を確保するために株式を売却せざるを得なくなったり、経営者に他にも相続人がいる場合は、株式を分散して相続させることになったりします。そうなると、後継者が結局承継した会社を手放すことになったり、承継後の会社の経営が不安定になったりするおそれがあります。このような株式の引き継ぎで生じる問題に対応する方法として、自己株式の活用が考えられます。
自己株式の活用
事業承継における自己株式の活用の方法としては、次の3つの方法が考えられます。
会社が経営者から自己株式を買い取る方法
この方法では、まず会社が資金調達して経営者から自己株式を買い取ります。次に経営者が後継者へ事業承継し、承継後、後継者が会社の保有している自己株式を報酬などの形で少しずつ取得していきます。この方法には、会社が事業承継の前に自己株式を買い取ることで、後継者が経営権を掌握するために必要な議決権の数が少なくなり、後継者に十分な資金が無くても株式を承継できる、事業承継にかかる時間を短縮できるというメリットがあります。
会社が後継者から自己株式を買い取る方法
この方法では、まず後継者が経営者から株式を承継します。次に会社が資金調達して後継者の保有している自己株式を買い取ります。この方法には、会社が事業承継後に自己株式を買い取ることで、後継者が会社の株式を現金に換えることができ、税金の支払いや金融機関からの融資の返済に充てる資金を確保できるというメリットがあります。
会社が少数株主から自己株式を買い取る方法
この方法では、会社が少数株主から自己株式を買い取ります。この方法には、分散している株式を集約することで、事業承継を進めやすくなる、承継後の経営を安定させるというメリットがあります。
自己株式の活用における注意点
会社が自己株式を買い取ると、株主が得た対価は配当とみなされる可能性があります(みなし配当)。みなし配当とされると株主が得た対価は配当所得として扱われ、総合課税の対象となるため、累進課税により課税額が大きくなる可能性があります。また、複数回の財産の移転があると課税回数が増えるため、税負担が大きくなるおそれがあります。この問題の対策としては、会社が後継者から自己株式を買い取る方法を選択し、経営者から相続または遺贈で後継者に株式を承継する形をとることで、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の適用を受けることが考えられます。この特例では、後継者が株式を相続または遺贈で取得してから3年以内に会社に売却すると、対価が譲渡所得として扱われ、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費として加算でき、税負担を抑えられます。
その他の注意点としては、分配可能額(会社財産から株主に交付できる金額の上限)を超える自己株式の買い取りはできない、他の株主から自己株式の買い取りを求められる場合がある、後継者が会社に株式を売却する場合は経営権を維持できる範囲で売却する必要があるなどがあげられます。
まとめ
事業承継では会社が自己株式の買い取りを行うことで、承継に必要となる株式の数を減らし、株式(議決権)の分散を防止して、円滑に事業承継を進めることが可能となります。自己株式の活用では、選択した方法により課税額が大きく変わる点に注意が必要です。そのため、専門家に相談して適切な支援を受けることが大切です。当事務所では、自己株式の活用も含めて事業承継の方法を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。