M&Aで会社や事業を売却する手法にはどのようなものがあるのでしょうか。M&Aでよく使われる手法と各手法のメリット、デメリットを解説します。

M&Aの手法

M&A(狭い意味のM&A)は、合併(新設合併、吸収合併)、分割(新設分割、吸収分割)、買収(株式譲渡、株式引受、株式交換、株式移転、事業譲渡)といった手法(スキーム)を組み合わせて行います。合併とは、2つ以上の会社を1つの会社として統合することをいいます。分割とは、1つの会社を2つに分割したり一部を別の会社に承継させることをいいます。買収とは、他の会社の経営権(議決権の過半数)を獲得することを目的に株式を取得したり、事業を譲り受けたりすることをいいます。これらの手法のうち、事業承継でよく利用される手法として、①株式譲渡、②会社分割、③事業譲渡の3つの手法があります。以下では、これら3つの手法について解説します。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手となる会社の株主が買い手となる会社に対して株式を売却することをいいます。株式は会社の所有者の地位であり、これを譲り受けることで買い手となる会社は会社の経営権を引き継ぐことができます。親族内承継や従業員承継におけるMBO・EBOも株式譲渡と類似の手法と考えられます。株式譲渡には、株式のやり取りで済むため、他の手法と比べて簡便な手続き短時間に行うことができる、会社の経営権と資産の両方を他の会社に引き継がせるため、経営者が売却益を得ながら完全に引退できる、会社の資産や人材をそのまま引き継ぐため経営への影響が少ないといったメリットがあります。その一方で、非上場の中小企業では株式価値が高額になりやすいため、買い手から見て株式の購入価格が多額になってしまう、会社が保有している事業用ではない資産や簿外債務(未払い残業代などの貸借対照表に記載のない債務)がそのまま引き継がれる、株式が分散している場合に株主の同意や株式の集約が必要となるといったデメリットがあります。

会社分割

会社分割とは、会社(分割会社)をその会社と新たに設立した会社(新設会社)に分割する新設分割)、または会社(分割会社)を他の会社(承継会社)に承継させる吸収分割)ことをいいます。会社分割は、株式の交付の仕方により、分割会社に株式を交付する分社型分割(物的分割)、または分割会社の株主に株式を交付する分割型分割(人的分割)に分かれます。そのため、会社分割の手法としては、新設分割か吸収分割か、分社型分割か分割型分割かを組み合わせた4通りの手法があります。会社分割の手法は、株式譲渡の手法と組み合わせて用いられます。会社分割には、株式を事業の対価とすることができるため、十分な資金がなくても行うことができる、事業譲渡と比べて簡便な手続きで行うことができる、特定の事業だけを包括的に引き継がせることができるといったメリットがあります。その一方で、株式譲渡に比べて手続きは複雑になる、税務上の手続きが複雑になる、包括的に事業を引き継ぐため、不要な資産や簿外債務がそのまま引き継がれる、非上場企業の株式が対価の場合、株式を現金化することが難しいといったデメリットがあります。会社分割は、承継する事業の規模が大きく事業譲渡の手法が難しい場合や、会社の一部を切り離して経営を改善させたい場合に用いられる手法です。

新設分割の手法

新設分割には、分社型新設分割(新設分割+分社型分割)と分割型新設分割(新設分割+分割型分割)があります。分社型新設分割では、分割会社は新設会社を設立して事業を承継させ、新設会社は対価として株式を分割会社に交付します。分割型新設分割では、分割会社は新設会社を設立して事業を承継させ、新設会社は対価として株式を分割会社の株主に交付します。

吸収分割の手法

吸収分割には、分社型吸収分割(吸収分割+分社型分割)と分割型吸収分割(吸収分割+分割型分割)があります。分社型吸収分割では、分割会社は承継会社に事業を承継させ、承継会社は対価として株式を分割会社に交付します。分割型吸収分割では、分割会社は承継会社に事業を承継させ、承継会社は対価として株式を分割会社の株主に交付します。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社が事業の全部または一部を他の会社に譲渡することをいいます。事業譲渡には、会社の事業や資産・負債のうち一部を譲渡して一部を会社に残すことができる、買い手となる会社は事業の一部だけを買えるためM&Aの費用を抑えることができる、不要な資産や簿外債務を引き継ぐリスクを回避できるといったメリットがあります。その一方で、引き継ぐ資産や負債ごとに個別の承継手続きが必要となるため、事業の規模が大きくなるほど株式譲渡や会社分割に比べて手続きは複雑になる、事業譲渡の対価は会社に入るため、経営者が事業譲渡から利益を受ける場合は、役員報酬、配当金、退職金などで経営者に支払う手続きが必要となるといったデメリットがあります。事業譲渡は、会社の事業の一部を売却したいが、一部は残して所有し続けたい場合や、株式譲渡に必要となる株主の同意を得ることが難しい場合に用いられる手法です。

中小企業におけるM&A

2018年版中小企業白書」によると、中小企業におけるM&A全体では、株式譲渡と事業譲渡の手法が約4割を占めています。一般的に、中小企業における事業承継を目的としたM&Aでは、株式譲渡の手法が最も利用されているといわれています。

まとめ

M&Aは、近年後継者不在の問題に対応し、事業を継承、発展させる方法として理解されるようになり、事業承継の中でも増加傾向にあります。しかしM&Aには、ここまでに解説したもの以外にも様々な手法があり、それぞれメリット、デメリットがありますし、最適な手法を検討するためには、法務、財務、税務などの専門的な知識が必要になります。そのため、第三者承継の方法としてM&Aを検討している場合は、どのような手法を用いるべきか、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、適切な事業承継方法を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。