少子高齢化の影響で農業を担う人材が減少する中、農業における事業承継の必要性が高まっています。農業の事業承継ではどのような問題があるのでしょうか。

農業における事業承継の重要性

農林水産省「令和4年度 食料・農業・農村白書」によると、農業従事者のうち普段から仕事として主に自営農業に従事する基幹的農業従事者は減少傾向にあり、2010年(平成22年)から2020年(令和2年)の10年間で36%減少しています。2022年(令和4年)の時点で、基幹的農業従事者のうち65歳以上の高齢の農業従事者が約70%を占める一方で、50歳未満の若い農業従事者はやや増加したものの約11%にとどまっており、高齢の農業従事者から若い農業従事者にどのように事業を引き継いでいくかが課題となっています。

若い農業従事者の新規就農者数を農業経営体別に見ると、全体の約3%を占める法人経営体では毎年一定の新規就農者がいるのに対して、全体の約96%を占める個人経営体では新規就農者は減少傾向にあり、個人経営体の後継者不足がより深刻になっています。農業従事者全体では、約半数で後継者が不在であるとされ、後継者候補がいる場合でも農業を継ぐ意思が不明確な場合が少なくありません。

農業は、食糧の供給、自然環境・景観の保全、防災、伝統文化の継承などの役割をもち、国や地域の社会経済の基盤となる産業分野です。その一方で、土地や設備、機材の確保に多額の初期投資が必要となる、生産技術の習得や農地・採草放牧地の土壌改良などに長い期間が必要となるといった理由から、0から農業に参入することは難しいといわれています。そのため、事業承継を促進して、農業を次の世代へと引き継ぎ発展させていくことが求められています。

どのような方法で事業承継するか

農業の事業承継では、個人経営体の場合、相続贈与売買(M&A)など個人事業主の事業承継の方法が、法人経営体の場合、親族内承継従業員承継(内部昇格、MBOやEBO)、第三者承継(外部招聘、M&A)などの方法がとられます。

農業の事業承継における問題

農業に特有の問題として次のようなものがあります。

承継に時間がかかる

一般的に農業は1年または数年単位で事業が計画、実施されることから、生産技術の承継には何年もの時間がかかります。農業の事業承継では、長期的な計画を立てて、時間をかけて後継者に生産技術を伝えるとともに、農業経営のノウハウを引き継いでいく必要があります。

不動産にかかる税金が多額になる

農地や採草放牧地、農業用設備などの不動産が多くあり、これらの相続・贈与には多額の相続税贈与税がかかる場合があります。不動産の相続・贈与にかかる税金を抑えるためには、使用貸借を活用する、相続時精算課税を活用する、事業承継税制を活用する、農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例を活用するといった方法が考えられます。

※事業承継税制の適用を受けるには、2024年(令和6年)3月31日までに特例承継計画を提出し、相続・贈与が2027年(令和9年)12月31日までに行われることが必要です。

動産にかかる税金が多額になる

農産物、未収穫作物、家畜・家きんなどの販売用動物、肥料・農薬といった動産(棚卸資産)の相続や贈与には相続税贈与税がかかり、譲渡(売買)には消費税がかかります。また、果樹、販売用ではない動物(乳用牛等の牛馬)といった動産(減価償却資産)の相続や贈与にも相続税贈与税がかかります。これらの動産は後継者に対して使用貸借しても贈与とみなされて多額の贈与税がかかる可能性があります。そこで、動産の金額が少ない場合は、相続時精算課税を活用する、動産の金額が多い場合は、後継者に譲渡することを検討する必要があります。

農業の事業承継における農業法人の活用

一般的に農業を行う法人のことを農業法人といい、会社法に基づいて設立される株式会社(非公開会社に限る)・持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)、農業協同組合法に基づいて設立される農事組合法人があります。これらの法人のうち農地法で農地の所有を認められた法人を農地所有適格法人といいます。個人経営体の事業承継では、農地所有適格法人を設立したうえで、資産を譲渡・賃貸借・使用貸借して、経営者や後継者はその構成員となります。これにより、事業承継を円滑に進めやすくなり、税制上の優遇を受けることができます。近年、農業従事者が減少する中でも農地所有適格法人は増加傾向にあります。

事業承継において農地所有適格法人を活用することには、次のようなメリット、デメリットがあります。

メリット

①家計と経営が分離されることで、経営管理が徹底される。

②金融機関や取引先からの信用が高まることで、大きな融資を受けやすくなる。

従業員の確保がしやすくなり、経営の発展をしやすくなる。

④従業員の中から後継者を確保しやすくなる。

デメリット

①法人の設立や維持には費用と手間がかかる。

法人税や社会保険料の負担が必要になる。

まとめ

農業分野では、少子高齢化に伴う後継者不足を原因とした廃業などにより農業従事者の減少が続いており、事業承継を促進することが求められています。農業における事業承継では、農地や農業用設備などの不動産、農作物や家畜などの動産を承継する際の税負担が問題となります。農業における事業承継を円滑に進めるには、専門家に相談して適切なアドバイスを受けることが大切です。当事務所では、農業における事業承継を検討するお手伝いを行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。